翻訳者の間で"うんのさんの辞書"と呼ばれ親しまれている辞書がある。
「ビジネス/技術 実用英語大辞典」(海野文男・海野和子編)がそれである。
一説によれば、ある翻訳能力検定試験会場で受験者に一番多く持ち込まれた辞書が、通称"うんのさんの辞書"だったそうだ。
翻訳者で「辞書」づくりを思い立つ人は少なくないであろう。
自分の専門分野の用語を集めた用語集、市販の辞書には飽き足らず膨大な書き込みが加えられた和英辞典―――。
しかし、本当に商業出版物として刊行するとなると、思い立つ人の数とほぼ同等に諦めた人がいるのが実状ではないだろうか。
では、翻訳者の一つの夢ともいえる「辞書づくり」を果たした海野夫妻とは、どういった方々なのだろうか。
―― そもそも辞書づくりを思い立ったキッカケは何ですか?
文男 まずこれが基本的に大事なことだと思うんですけど、英語が好きだ、というのが根底にあります。それと、実務的な面では翻訳作業をする中で、既存の辞書ではあまりにも役に立たない表現が多く、それならばというので自分達で日本の辞書に載っていない表現を集め始めたのです。―― で、その出版社の反応の方はどうだったのですか?
文男 「どんどん作業を進めて下さい」といわれて1年ぐらい待たされたあげく、「商品性が無い」でボツ企画に…。―― で、結果的に読者は認めてくれた、と。ところで、今の版元との出会いはどんな形だったのですか?
和子 出版社に辞典を出すかどうか検討してもらうというのは、資料を求められたり打ち合わせたりでとにかく時間をとられるし、それに待たされるのです。そんなことをしていたら辞典の作業が進まないし、資金のやりくりも限界に来ていたので、マスコミに助けていただこうと手紙を書きました。そんな中で'92年に朝日新聞が私たちの「辞書づくり」を記事にして下さったのですが、その記事が出た翌日に、日外アソシエーツの編集者の方からお電話がありました。辞書データの一部をお渡ししたら、驚くほど早く、いいお返事をいただいたんです。―― 3年ですか?
和子 貯金はなくなるし、親戚から借金するしで、本当大変でした。―― それにしても、「表現を集める」といっても、その作業は大変だったのではないですか?
文男 データといっても手書きでノートに書く、集めるといってももちろんインターネットなんてありませんから、本当に大変でした。(取材・文: 日外アソシエーツ編集部)
ビジネス技術 実用英語大辞典 英和・和英/用例・文例 第4版 CD-ROM
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